「日本の水素ロード」九州・四国編を振り返って

TOYOTA MIRAI(水素燃料電池車)満充填で1,360kmという米カリフォルニア州で達成されたギネス世界記録がある。確かにクルマの性能を実証した素晴らしい記録ではあるが、平坦な規定ルートを定速で計測したものなので、あまり意味をなさないのではないだろうか。今回のように、長い距離、多様な道路状況を検証してこそ、水素燃料電池車を日常で使用する参考になり、解決すべき課題も浮き彫りになるというものだ。

ゴール地点:総走行距離2,623.3km 平均燃費134km/kg

総走行距離2,623.3kmの半分は市街地や峠道、曲がりくねった海岸線などの一般道を走行して、平均燃費134km/kgは良い結果ではないだろうか。MIRAIの満充填は5.65kgなので、134×5.65=757.1kmになる。もちろん燃費には注意を払っていたが、さほどストレスを感じることなく走行した結果だ。これは今回使用したMIRAI(Zグレード)カタログ参考値750kmと比べても同等以上の値なので参考にしていただきたい。

優秀なのは燃費だけではない。MIRAIというクルマのポテンシャルの高さにも改めて気付かされた。スポーティで魅力的なエクステリアや上質なインテリアはもちろん、ドライビングカーとしての楽しさは特筆に値する。下り坂では燃費を考えてなるべく減速せずにコーナーへ侵入するのだが、かなりの高速でタイトコーナーを抜ける場面でも、全く不安を感じる事なく思い通りにトレースしてくれる。アップダウンが連続する峠道ではアクセルワークに注意してペースを保てば燃費を削ることなくしなやかにかわし、制限速度を下回るクルマを追い抜く時の瞬発力はスポーティな片鱗を見せてくれる。総じて、長距離走行のあらゆる場面でドライバーの意図を裏切らないグランツーリスモのお手本のようなクルマなのだ。

MIRAIのオーナーになった場合、自宅や勤務先の10km圏内に水素ステーションがあるなら、普段の使用に困る事はないだろう。だが今回のようなロングツーリングでは少し事情が違ってくる。現在の水素ステーションインフラの状況下では、営業時間や休業日などを考慮し、走行可能距離に注意しながらルートを組み立てる必要がある。しかしこれはハードルではなく、ゲーム性を帯びた新しい楽しみ方だと思っていただきたい。日本政府は成長戦略の一環として、2030年までに水素ステーション1,000基を開設する目標を掲げているので、チームACPはこれからも全国に拡大していく各地の水素ステーションをチェックポイントに見立てた“ラリー”に挑戦していこうと思う。

水素社会の近未来について

福島県浪江町にある世界最大級の水素製造施設「NEDO」を訪問した時に、水素PR館のスタッフは言った。

“水素は太陽光や風力などの安定しない再エネの電力を貯蔵し、運搬し、いつでも使えるメリットがあります。しかし、電気を水素に変え、さらに水素を電気に変えると、元のエネルギーは半分以下に減ってしまうんです。ですから、エネルギー問題の全てを水素で賄おうと考えるのは間違えで、さまざまな方法を併用しながらエネルギーをスマートに使いこなすことが大切です。そして、新たなエネルギー生産の技術革新にも期待しています。”


この挑戦に賛同し、協賛していただいた丸徳商会様、MIRAIを提供してくれた群馬トヨタ様。そして応援してくれたたくさんの皆さまのお陰で、日本本土四極踏破を含む旅を完遂することが出来ました。ありがとうございます。